電気災害・アーク放電の研究課題の捉え方

Q1
自然災害における電気事故、電気火災を(電気災害)取り上げるのはなぜですか?

A1

電力供給が多様化し、電力利用も多様化し、自然災害が多発し、さらに地震や津波などの大規模災害が予想されている。電力の供給と利用は、多様化にもかかわらず関連技術は連続性が求められる。さらに、電力利用は供給と利用がネットワークで結ばれている。電気災害の調査や対策には、総合的、統一的な視点が必要だ。筆者らは、そのキーワードがアーク放電だと考えている。

Q2
アーク放電とはなんですか? 電気事故、電気火災を対象とするとき、アーク放電にこだわるのはなぜですか?

A2

空間を電荷が移動する放電現象の最終段階である。低電圧から高電圧まで、小電流から大電流までをカバーする現象である。電気事故や火災と深くかかわる。 しかし、アーク放電は、研究分野や応用分野によって視点が異なり、一般的な定義はあいまいである。筆者らの理解を述べる。

電源に接続された対向する導体間の電子、イオンによる電流現象であることを前提として、共通項を取り上げる。

  • 空間を電荷が伝搬する現象はいろいろあり、気体放電と呼ばれている。その中でもっとも進展したもの(最終段階)。
  • 比較的低い電圧で大電流が流れる。閾値電流、閾値電圧がある。
  • 電力配電のような場合、高電圧で大電流が流れる。
  • 大気中のアーク放電では放電路が発光で弧状(アーク)が確認される。

応用分野などで表現が分かれるのは、電流を担う電荷としての電子とイオンの発生に関する。異なる説明を羅列する。

  • 自然由来の空間電子の加速、衝突、電離に基づく現象との説明(高電圧、微弱電流現象であるグロー放電やパッセンの火花放電などタウンゼント理論の展開)
  • (炭素やタングステン電極など、高融点金属を対象とした)電極からの熱電子放出が起こる。
  • 電極空間での電子やイオンの蓄積(シース)で高電界層が形成され、電子電界放出が起こる。

Q3
電気災害でのアーク放電の特徴はなんですか?

A3

【自然災害でのアーク放電の危険性】
電源があれば、アーク放電はどこでも起こる可能性がある。アーク放電は、一旦発生すると、さらに拡大し、大きな災害の引き金になる可能性がある。災害、特に構造物の破壊や浸水は、アーク放電の起こりやすさ、拡大のしやすさを高めるから。

【アーク放電として電気災害の特殊性】
応用分野が限られたアーク放電は、多くの実験によって、アーク放電が起こる条件や拡大する条件が明らかになっている。それゆえ、照明機器や電気接点や集塵器や溶接機や加工機が実用化され、安心して使える。
しかし、現状では、自然災害での電気災害はあらかじめの想定はできず、実験もできない。災害を調査できても最終段階の1場面を観察するだけが現状である。

Q4
電気災害の検討に、どのような視点で、どのようにアプロ―チするのですか?

A4

自然災害における電気が関係する事故、火災であっても、アーク放電とかかわるかどうかの判断は難しい。起こった現象を、筆者らは、開閉電気接点を中心とした研究(YMモデルと仮説)基づく電気災害と想定して、調査・検討する立場である。

【アーク放電を起こすトリガとなる現象の想定】
電線やデバイスの浸水、裸線や金属部の接触・近接、火花などの可能性

【アーク放電ので起こる現象の想定】
金属溶融(銅球痕など跡)や絶縁物の熱分解などの可能性

【配電路を介した電気的に波及する想定】
自然災害などでのど電気災害は、即時に事故、火災に至る場合もあるが、経時劣化によって、後刻に災害が現れる場合がある。

Q5
アーク放電にこだわったYMモデルでのアプローチは妥当ですか? YMモデルは科学的に証明されていますか?

A5

  • 科学的に完全に証明できているわけではない。しかし、実験とシミュレーションで、蓋然性は確認できている。
  • YMモデルやそれを支える仮説には提案根拠があり、蓋然性は確認しながら進んでいるつもりである。
  • 本企画の第Ⅱ部(電子書籍/紙書籍)がそれに該当する。

第1章、2章が提案と開閉電気接点によるYMモデルのアーク現象実験による確認である。
第3章は、 YMモデルを多様なアーク放電現象に適用するための電気的等価回路表現であり、コンピュータシミュレーションができる。
第4章では、多様なアーク放電応用をシミュレーションによって数値解析した。電気災害の現象推定のヒントになるだろう。

災害時において、因果関係がはっきりしない電気災害を調査し対策を考えるときは、なんらかの仮説に基づくのが有効であろう。

Q6
YMモデルが従来の考え方と異なるポイントは何ですか

A6

  1. アーク放電現象を、3段階に分けて扱うこと。
    対向する電極間の部分集中電流による固体と液体の界面での電気2重層形成と
    固液界面での電位差発生による電子、イオン放出と、
    電極間空間の電子、イオン電導。
  2. 対向する電極間の多様な部分集中電流がトリガとなるとの想定。
    金属接触電流、浸水や汚れによる漏洩電流、電極間の浮遊容量による変位電流、火花放電電流など、多様な電流をトリガ電流として扱うこと。
  3. 固液界面では、陰極では金属の仕事関数の電位差で、陽極ではイオン化エネルギーの電位差でイオンが発生するとの想定。
  4. 電極間の空間で、放出された電子とイオンは衝突や電離や拡散などで減衰(抵抗発生)するが、常に等電荷量で、電源を含めた電気回路で決まる電流が流れるとの想定。

Q7
YMモデルでの電子、イオンの放出の考え方は、従来の考え方と異なりますが、その妥当性の根拠はなんですか?

A7

  • 本企画第2部は、このYMモデルの妥当性を確認するためにまとめたものです。
  • このモデルは、Q3/A3で述べたアーク放電の特徴を満足し、電磁気がくの電荷保存則うあ電流連続則を満足し、かつ電気接点研究で多くの経験から積み上げられてきた最小アーク電流や最小アーク電圧の考え方と矛盾しないモデルです。仕事関数やイオン化エネルギーの考え方とも大きな齟齬はないと思っています。
  • 電気化学での電極と電解液の界面での酸化還元反応と、金属電極の固液界面からの電子、イオンの放出のアナロジーを考えています。
  • 開閉電気接点でのこれまでうまく説明できなかった実験結果の因果関係に妥当な解釈を与えています。
  • タウンゼントの気体放電論を展開し、日本の気体放電技術の実用化に貢献された八田吉典先生の教科書に、以下のような記述があります。
    『アーク放電は自然由来の電子の加速・電離によるグロー放電とは異なる電子放出機構であろう。タングステンや炭素のように、融点の高い金属(W:約3400℃、C:約3800℃)ならアーク放電に相当するような熱電子放出が想定できるが、銅や銀などの低融点金属や水銀などでは熱電子放出は考えられない。そこで、電子電界放出を想定したいが、相当量の電子放出に必要な107V/cm程度の電界が電極表面にできる電位分布の発生を説明できない。若い頭脳が、このような「真理探究」にファイトを燃やせ!』と語られた。55年前に講義を聴き、今頃になっての宿題の提出である。

Q8
自然災害における電気事故、電気火災を取り上げた本プロジェクトをどのように活用したいのですか。

A8

  • 一般の方々に;自然災害の多発が予想される時代。電力利用がますます発展するだろう時代。多くの方々に電気事故、電気火災のこわさとどこでも起こる可能性があること気づいてもらえるような活動がしたい。できるなら、この企画の中に、それぞれの居場所での防災、減災のヒントを探してほしい。
  • 防災関係者に;自然災害による電気災害は、複雑で多様な因子が絡み合う。消防、防災、減災や調査にかかわる人と、議論がしたい。責任問題とは全く無関係に、今後の防災に少しでも寄与できるような話し合いがしたい。老齢で僻地に住んでいても、通信と情報処理技術を活用して、飛んでゆきたい。
  • 放電関係研究者に;電気災害を統一的、総合的に扱うために、いくつかの大胆な仮説を立てた。内容や表現には、物理学の立場から多くの誤りがあることを危惧している。斯界の専門家の方々から、ご批判、ご助言を受けたい。『よろしく!』と、お願いするばかりである。