実際に起こった電気事故/火災へのYMモデルの立場での見解

女川魚市場分電盤火災(2022年3月)

1.身近で見聞した2022年福島沖地震での女川魚市場分電盤火災は、原因と結果が明白な、典型的な自然災害による電気火災だった

  • 2022年3月16日23時36分に福島県沖で発生したマグニチュード7.4の地震で、宮城県女川町では震度5強の地震が発生。
  • 女川港岸壁の魚市場で、セリ場天井の排水管(塩水)が破損し分電盤で電気火災が発生。
  • 翌朝2時半ごろ臭いで火災に気づき、消防に連絡、発煙状態に放水、鎮火とのこと。

【本章の内容】

  • この電気火災で、どんな物理現象が起こったか検討する。
  • 高潮での類似の電気火災と比較・検討する。
  • 電気火災消火の難しさを再確認する。
図:災害場所と火災のあった分電盤

2.消防、警察の調査結果は、『地震でのパイプ破断による分電盤浸水による電気火災』だった。

【消防、警察の調査結果】
『地震に因る天井塩水配管の接手部分の破損での漏水による、分電盤内への塩水侵入での異常な発熱による短絡での電気火災』との趣旨で処理された。

【前例に従った 迅速な判断】
魚市場の緊急対策は大型水槽をフォークリフトで運搬。
火災5日後には市場再開。重要な養殖銀鮭のセリ復活。
 ➡水産業者などへの悪影響は最小限に抑えられた!

写真:セリ場風景

セリ場風景(女川魚市場HPより)

図:YMモデルで物理現象を再検討する

3.塩水侵入で分電盤で何が起こったか?
塩水での漏洩電流をトリガとするアーク放電

電気災害発生場所は、キュービクルを介した受電側に激しい痕跡が集中。高圧電力関係部分は黒化・分解が激しい。

【YMモデルでの現象の説明】

通電中の分電盤内部に塩水が侵入➡向かい合う2つの導体(電極)間を漏洩(イオン)電流が流れる
 ➡電極への漏洩電流の部分集中が起こり、金属表面が部分溶融すると、固液界面に電気2重層が発生する
  ➡陰極の電気2重層からは電子、陽極の電気2重層からはイオンが放出され、アーク放電が始まり持続する。
   ➡アーク放電は電極表面を溶融温度(Cuなら約1000℃)に持続するので、金属溶融、絶縁物熱分解が続く。

図:塩水での漏洩電流をトリガとするアーク放電

4.アーク放電の怖さは、電力で持続する溶融と熱分解である。
溶融と熱分解の持続には酸素も可燃物も不要。断続が可能。電力がエネルギー供給を続ける。

図:アーク放電の発熱の特徴

5.アーク放電中の発熱は固液界面で起こる。部分的に融点温度が持続する

図:アーク放電中の発熱は固液界面で起こる

6.浸水した隣の分電盤で13日後に電気事故が発生。劣化が進行していた。

【地震・浸水・電気火災から13日後、火災発生分電盤から約10mの位置の分電盤で、発煙事故が発生】

  • 電気火災同じキュービクルからの3線単相での配電。近接壁面に設置。
  • 金属ボックス外部のは損傷なし。
  • 上部(受電口部)付近の汚染がはなはだしい
  • 分電盤内に大量の黒灰色飛散物が飛散し、配線電極付近にこびりついている。
  • 受電部ブレーカ―形状が縮んでいる(樹脂が飛散・分解した)と思われる。
図:電気火災は、浸水でどう展開するかがわからない!