実際に起こった電気事故/火災へのYMモデルの立場での見解

能登半島地震による輪島朝市大火災(2024年1月)

1.失火原因は不明、物証も不十分だが、大火災初期に電気火災の発生を想定

『ほとんどの火災は、わたしたちが注意をすることで防げます。自分や家族の命を落としたり、大切な財産を失うことがないように、火災を防ぐためのポイントをきちんと学び、日ごろからみんなで注意し合うようにしましょう。』
;浦和市消防関係HPから
  • 大火災を防ぐための大切なポイントは、出火原因であろう。
  • 筆者らは、電気火災とかかわるアーク放電を研究してきた。
  • アーク放電の発現・持続・停止の物理現象の解釈に、YMモデル仮説を提案し、実験的にな蓋然性を追求してきた。
  • この視点で、輪島大火災での電気火災への推論を説明する。
写真:消失区域航空写真

消失区域(三重県防災航空隊撮影)

2.消防庁消防研究センターの調査報告;出火原因に電気火災の可能性を述べている。

図:出火原因の調査
  • 調査員の丁寧な調査活動が重要な電気痕を見つけた。
  • 『地震の影響により電気に起因した火災が発生した可能性』のがなされている。
  • 地震と電気痕の関係は不明のままでは、火元対策は立てにくいだろう。
    ➡因果関係を考えるヒントを提供したい。

3.出火場所は汽水域の河原田川に近く、川を遡上する津波で浸水した想定できる

地震での建物崩壊と波高値の大きな津波による被害と、海岸に近い河岸で汽水(塩分の多い水)であったことが重なった地域と想定できる。輪島への津波到着が20~40分後だったとの情報があった。

図:輪島地区地図

➡アーク放電が関係する電気火災であった可能性を示唆している。

4.輪島での地震後に類似火災が起こる可能性があった?!;YMモデルに基づく想定

地震で破壊された配電路中での向かい合う2つの導体(配電線、ブレーカ、支持金具など)間に、津波での塩水侵入が起こり、2つの導体(電極)間を漏洩(イオン)電流が流れ、発熱の大きなアーク放電が発生する可能性がある。

➡電極への漏洩電流の部分集中が起こり、金属表面が部分溶融すると、固液界面に電気2重層が発生する。
  ➡陰極の電気2重層からは電子、陽極の電気2重層からはイオンが放出され、アーク放電が始まり持続する。
   ➡アーク放電は電極表面を溶融温度(Cuなら約1000℃)に持続するので、金属溶融、絶縁物熱分解が続く。

図:輪島のケースでのアーク放電

5.なぜ、輪島火災発生(覚知時刻)が地震発生から約70分後だったか。その説明。

;真昼の繁華街であり、覚知に時間がかかったとは思えない。実際に発火が約70分後だったのだろう。
;YMモデルよって、(地震+津波(浸水)+電力通電)でアーク放電/電気火災が発生する可能性を考える。

図:YMモデルでの説明

6.消防庁が調査した輪島朝市の大火災での物的証拠(電気痕)をアーク放電のメカニズム(YMモデル)で考察する

図:電気火災における「銅粒」形成のメカニズム

7.輪島朝市火災では地震直後の送電停止と約50分後の試送電が行われた。

  • 通常の火災時の処理とは異なり、地震発生直後に送電を停止した。
  • 50分後に試送電を行い、異常を検出したので瞬間に停止したと報告されている。

【通常の火災の場合】

  • 火災時に電力会社が送電停止を行う理由は、火災の拡大を防ぎ、安全を確保するため。(消防の要請によるスタート)
    (送電が続いていると、火災現場での電線が断線したり、設備に損害を与えたりすることで、二次災害が発生する可能性がある。停止することで救助活動の安全性が向上し、火災の被害を減らすことができるだろう。)
  • 具体的には、電力会社と消防隊が連携し、必要なエリアのみ送電を停止する。こうした措置は、多くの場合、事前に定められた計画や対応手順に基づいて行われ、地震直後に実施されるのは稀。2013年東日本大震災でも、2022年福島県沖地震でも、この処置は取られなかった。

【輪島朝市火災における地震直後の電力会社による送電停止】

地震発生後の安全確保のため、地震が発生した令和6年1月1日16時10分頃に、火元建物がある地域への電力会社の送電が停止された。(この措置は、地震による電気設備の損傷が火災を引き起こすリスクを軽減するためには有効だっただろう)

【約50分後に電力会社によるは試送電の実施】

送配電設備の異常を確認するため、地震発生約50分後、1月1日17時04分に(火元建物がある地域への)試送電(送配電設備の異常の有無を確認するための瞬間的な送電)を実施。異常が検知されたため、復電には至らなかった。
『瞬間に再停止』と報告されているが、通電時間の記載はない。しかし、一般の交流高圧電力設備では、回線の状態を感知し、異常を判断し、通電停止するには、通電後、数分程度の時間がかかると推定している。(アーク放電が発現する十分な時間であると想定した。一般的な電力機器の慣性からの推測である。)

➡アーク放電が起きやすい、対向する導体の存在、塩水による漏れ電流、通電による電気的過渡現象が想定できる。